和歌と俳句

火取虫 蛾

烈風の街燈に出づ灯蟲かな 汀女

蛾よひとつ玻璃のみどりにゐて静か 三鬼

今宵蛾に触りてしこめと吾がなりし 鷹女

蛾が白くしこめは梳けり夜の髪を 鷹女

蛾のひげの垂れて来てわれを嗤ふかな 鷹女

吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が 鷹女

蛾の翅音聴きつつ今宵眠られぬ 鷹女

灯取蟲その夜はげしく酔ひにけり 林火

放つ蛾のきららが指紋見せにけり 亞浪

おくるひとおくらるる人ひとりむし 万太郎

手摺まで闇の来てゐるひとりむし 万太郎

灯蛾は夜々減れど戦報相つげり 草田男

蛾の舞ひやおのづとひかるえんまの眼 林火

山宿の壁に紛らふ蛾なりけり 亞浪

耳を掻く癖などつきて火蛾に孤り 草田男

すいと来ぬ今宵は灯蛾のみなちさく 

灯蟲来る夜の鏡のうつろかな 汀女

灯取虫捨てつつもいふことひとつ 悌二郎

死処として一夜を壁にゐたる蛾か 悌二郎

蛾の迷ふ白き楽譜をめくりゐる 静塔

潮騒を身ちかく火蛾と海渡る 多佳子

牛馬啼く山の闇あり灯蛾の宿 草田男

蛾の翳にペンを握るや兄ふたり 鷹女

人の言聞きをるや火蛾にまつはられ 林火

灯取虫稿をつがんとあせりつつ 虚子

帯に落ち這ひ上るなり灯取虫 虚子

灯取虫這ひて書籍の文字乱れ 虚子

かぎりなき灯蛾のかなたの滋賀の湖 楸邨