和歌と俳句

中村草田男

火の島

黒土の春に式後の女学生

春陰の国旗の中を妻帰る

妻抱かな春昼の砂利踏みて帰る

雛の軸睫毛向けあひ妻子睡る

吾子顎に力皺寄せ虻見守れる

母の背に居る高さ虻の来る高さ

のけぞれば吾が見えたる吾子に南風

吾子の瞳に緋躑躅宿るむらさきに

朧三日月吾子の夜髪ぞ潤へる

宵闇の義父の広掌へ子を托す

目あけ臥る公園の空のみ

飛燕高し物干台に狆動く

ひもじさは嬉しさに似てセルの胸辺

胸病めば農婦日傘をさして通る

日曜をその故に賞づ端居の花

端居の祷り夙に亡き友かもしれず

六月教師と柱暦煽る

耳を掻く癖などつきて火蛾に孤り

郷愁は梅雨の真昼の鶏鳴くとき

汽車発着空樽の胴梅雨が鳴らす

袋町梅雨の弱星かかげ棲む

仄白し梅雨降り寄れば風押しゆき

まだ消ざる優曇華嗤ひ箸を措く

優曇華やしづかなる代は復と来まじ

猫の仔の鳴く闇しかと踏み通る