和歌と俳句

中村草田男

火の島

燈台のことごとく根なし雲

蒲公英のかたさや海の日も一輪

遠濤と遠岩睦む明るさよ

冬濤の真白き上の水けむり

冬濤や砕けし波の綾載せて

冬濤の最後躍りぬ懸崖へ

冬海や落花のごとく鴎浮く

群鴎空に遅れ冬濤のみぞ来る

青さ寒さ群鴎数を尽すとき

年頭の燈台白しと報げやらむ

燈台や三日月こそは陸の奥

群鴎に暮れ寒星の乱れなく

濤声冴ゆるげに古言の犬吠ゆる

赤き岬鵜の沖岩を冬日護る

冬海は紺岩階を踏みのぼる

断崖裡鵜の海さむき銀となる

の威に墓ことごとく蒼ざめぬ

冬濤の濤垣水平線も無し

左右の果冬濤深く陸にあり

一ところ冬日慕うて雲隆み

冬濤幾重階為す九十九里の間

冬浜を一川の紺裁ち裂ける

寒鴉啼きて沖には国もなし

冬濤のひびき破船のしじまのみ

破船ただ冬濤崩れ敷妙に