和歌と俳句

日野草城

元旦の餅を焦せしあろじかな

元旦や古色めでたき庵の妻

元朝や去年の火残る置炬燵

更けて焼く餅の匂や松の内

初空や一片の雲輝きて

お降の八ツ手に煤もなかりけり

湯をつかふ音もときめく初湯かな

ほのぼのと初鏡より明けにけり

初春や島田おもたきタイピスト

春服や三十年のひとりもの

おさがりのきこゆるほどとなりにけり

撫肩のすらりと鼓初かな

袖ぐちのあやなる鼓初かな

次の間に妻の客あり寝正月

寶恵駕の妓のまなざしの来てゐたる

日かげりて輪飾青くなりにけり

弾初の鍵より白き手をもてり

弾初のをはりし指の閑かなる

初空の大青空は見れど飽かず

屠蘇重し軽き朱金の酒杯に

数の子に父祖の白歯もひびきけむ