和歌と俳句

日野草城

モーニングなほ着たるあり事務始

印字機の既に喧し事務始

来信の山卓上に事務始

印影の朱のあざやかに事務始

弾初のそのはじまりの音一つ

弾初の妻の真顔に黒子あり

初日影焦都大阪市を照らす

国敗れ人倦みて年新たなる

初鏡いくさは去年のこととなりぬ

焼け残る春着をまとひ妻子らは

初春や焦都相を改めず

しなだれて眼をつむりゐる屠蘇の酔

元旦の歯をていねいにみがきけり

正月も五日のひげのいちじるき

枕辺へ賀状東西南北より

大服茶やひとのなさけにながらへて

お雑煮や病牀に坐りて主ぶり

舌の先屠蘇に触れたるばかりにて

戸を繰るや年の初風そよそよと

生きてまた年を迎へぬ咳溢る

元旦の焜炉をあふぎはじめけり

雑煮餅坐りて食ふや癒えしごと

髪減りて数の子も歯に合はずなりぬ