日野草城
初冬や手ざはり寒き皮表紙
炉開いてとみに冬めく畳かな
冬ざれや青竹映る手水鉢
寒柝にミる月の光かな
はろばろと沖べ蒼みて寒さかな
麓の灯寒く灯れば山の灯も
大淀や水の光も小六月
小六月藁打つ嫗藁の中
短日の大いなる樹を斫り倒す
かさこそと掻餅焼くや冬の夜
灯ともるや寒の内なる青畳
冬の陽や枯木の中の竹二本
木枯や翠も暗き東山
竹藪に北風騒ぐ音ぞかし
冬の月寂寞として高きかな
鋸のにぶき響きや冬の雨
音やみていまだも降れり冬の雨
うつしみや音に出でたる寒の雨
藪の穂に星は見えゐてしぐれけり
着膨れて霜草に下駄小き子よ
日あたりて物音もなし冬の山
唇の紅さ枯野を粛殺す
捨石の凝らす思念や土の冬
日の当る紙屑籠や冬ごもり
叡山を隔つ障子や冬籠