和歌と俳句

日野草城

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

寒灸や中年の膚しみだらけ

寒灸や黄色人種肌をぬぎ

筋骨に灸火の熱さ突きささる

もぐさの火をみなの肌も冬ざるる

冬の灯をはやばや点けてわがひとり

締め忘れられて師走の古襖

極月や裸の炬燵畳の上

寒卵われのみに割る妻の胼

木枯やもろにみだるる大煙

大霜におどろいてゐる妻のこゑ

厚氷妻の非力を刎ねかへす

夜番の柝ひびく月光世界かな

やはやはとはだへを洗ふ柚子湯かな

まどろみて待つや柚子湯にゐるひとを

をさな子も深雪を帰るクリスマス

臥生活のラヂオを聴けばクリスマス

臥生活の四肢たひらかに年暮るる

除夜の鐘わが凶つ歳いま滅ぶ

寒牡丹この日崩ると記憶せむ

妻の手のいつもわが辺に胼きれて

華燭の日はるかになりし妻の顔

妻の息白し寒厨氷点下

ラヂオさへ黙せり寒の曇り日を

大寒や襟巻をして褥中に

夕しづの寒の庭掃く音きこゆ