和歌と俳句

古今集 よみ人しらず
大空の月のひかりしきよければ 影みし水ぞまづこほりける

拾遺集 友則
とひかよふをしの羽風の寒ければ池の氷ぞさえまさりける

拾遺集 よみ人しらず
水のうへに思ひしものを冬の夜の氷は袖の物にぞありける

拾遺集 兼盛
ふしつけし淀の渡をけさ見ればとけん期もなく氷しにけり

後拾遺集 頼慶法師
さむしろはむべ冴えけらし隠れ沼の蘆間の氷ひとへしにけり

後拾遺集 快覚法師
小夜更くるままに汀や氷るらん遠ざかり行く志賀の浦浪

後拾遺集 僧都長算
鴎こそよがれにけらし猪名野なる昆陽の池水うは氷りせり

後拾遺集 曾禰好忠
岩間には氷のくさび打ちてけり玉ゐし水も今はもりこず

続後撰集 中務
氷ぬる 池のみぎはは 水鳥の はかぜに浪も さわがざりけり

好忠
高瀬さす淀のみぎはのうは氷下にぞなげく常ならぬ世を

匡房
かはごしの 柴つみ車 いかがする 氷のくさび 冬は絶えせじ

公実ますらをが もふしつかふな ふしづけし かひやが下も こほりしにけり

京極関白家肥後
ふゆふかみ こほりやあつく とぢつらむ おとたえにけり たにかはのみづ

祐子内親王家紀伊
おくやまの みなかみふかく こほればや おちこしたきの おともきこえず

俊頼
夜を寒み 結ぶ氷や 水鳥の かづく岩間の 関となるらむ

俊頼
せきりせし 眞野のなからは こほりゐて いくひに波の こゑ絶えにけり

俊頼
眞野の池に こほりしぬれば 葦間なる 橋もたづねて 島つたひしつ

俊頼
飛鳥川 淵は氷に 閉じられて いかで風にも なりかはるべき

金葉集 藤原隆経朝臣
高瀬舟さをの音にぞ知られぬる蘆間の氷ひとへしにけり

金葉集 内大臣有仁
谷川のよどみを結ぶ氷こそ見る人はなき鏡なりけれ

金葉集 藤原仲実朝臣
しながどり猪名の伏原風さえて昆陽の池水こほりしにけり

金葉集 三宮顕仁親王
つながねど流れもやらず高瀬舟むすふ氷のとけぬかぎりは

式子内親王
年波の重なることを驚けばよなよな袖にそふ氷かな

千載集 大納言藤原隆季
澄む水を心なしとはたれかいふこほりぞ冬のはじめをも知る

千載集 左大弁親宗
いづくにか月はひかりをとどむらんやどりし水もこほりゐにけり

千載集 藤原成家朝臣
冬来ればゆくてに人は汲まねどもこほりぞむすぶ山の井の水

千載集 道因法師
月のすむ空には雲もなかりけり映りし水はこほりへだてて

定家
なには江の氷にとづるみをつくし冬の深さのしるしとぞ見る

新勅撰集・冬 式子内親王
ふきむすぶ たきは氷に とぢはてて まつにぞかぜの こゑもをしまぬ

良経
志賀の浦こずゑに通ふ松風は氷に残るさざなみのこゑ

良経
おほゐがは瀬々のいはなみ音たえて井堰の水に風こほるなり

良経
今朝みれば池にはこほり隙もなしさて水鳥の夜離しけるを

良経
山ふかき水のみなかみこほるらし清瀧川の音のともしき

良経
なにはがた入江の葦は霜枯れて氷にたゆる舟の通ひ路

定家
月に出づる 堅田のあまの 釣舟は 氷か波か さだめかねつつ

定家
鏡山夜わたる月もみがかれてあくれどこほるしがの浦波

続後撰集 後京極摂政前太政大臣良経
はつせめの しらゆふ花は おちもこず こほりにせける 山川の水

続後撰集 後鳥羽院下野
いとどまた さそはぬ水に ねをとめて 氷にとづる 池の浮草

氷苦く偃鼠が咽をうるほせり 芭蕉

瓶破るるよるの氷の寐覚哉 芭蕉

一露もこぼさぬ菊の氷かな 芭蕉

くらがりの柄杓にさはる氷かな 太祇

あぢきなき果を添水のこほり哉 青蘿

わらんべは目がねにしたる氷かな 一茶

手拭のねぢつたままの氷哉 一茶

本馬のしやんしやん渡る氷哉 一茶

古濠の小鴨も居らぬ氷かな 子規

人住まぬ屋敷の池の氷かな 子規

鶺鴒の刈株つたふ氷かな 子規

暁の氷すり砕く硯かな 子規

御手洗を敲いて砕く氷かな 漱石

梯して上る大磐石の氷かな 漱石

石打てばかららんと鳴る氷哉 漱石

火の映る北上氷りそめにけり 碧梧桐

山の池の緑に薄き氷かな 碧梧桐

氷ちらと光る溝あり月の街 石鼎

紫に蜆のつるゝ氷かな 喜舟

岸ほどに枯蓮しげき氷かな 石鼎

烈風に松もまれゐる氷かな 石鼎

重ねある鉢の氷や枯木下 石鼎

紫に走り裂けたる氷かな 青邨

薔薇色の空に鐘なる氷かな 茅舎

空谷のわれから裂くる氷かな 普羅

城壁のくづれんとして氷かな 波郷

厚氷妻の非力を刎ねかへす 草城

病み倦めば煤の降りゐる氷かな 波郷

美しき木の葉を閉ぢし氷かな みどり女

カナリヤの声がよすぎて氷張る 不死男