和歌と俳句

大江匡房

立田川 秋のとまりと みしほどに 水さへこほる 冬は来にけり

うちかづく 笠取山の 時雨には 袂ぞ濡るる 人な咎めそ

千載集・冬
高砂の 尾上の鐘の 音すなり あかつきかけて やおくらむ

人とはで 葎はやどを させれども 音するものは なりけり

金葉集・冬
いかにせむ 末の松山 波こさば みねの初雪 消えもこそすれ

霜枯れて 花は散りぬと 見しかども 玉江の葦は 冬ぞたえせぬ

月影の 明石の浦を 漕ぎゆけば 千鳥しば鳴く 明けぬこの夜は

かはごしの 柴つみ車 いかがする のくさび 冬は絶えせじ

千載集
水鳥の 玉藻の床の 浮き枕 深き思ひは たれかまされる

さざなみや あふみのうみの 網代木に 波とともにや 氷魚のよるらむ

あかつきの 星さへ冴えぬ 榊葉の 霜うちはらふ 袖のかさふり

み狩する 野中の木居の しげければ そらとぶ鷹の たがへりもせず

浦島の 箱ならねども 炭竃は 年の明くるを くゆるなりけり

ほにいでて まだおきながら 埋火の 舟ならねども こがれこそすれ

吉野川 流れて過ぐる 年波に たちゐの影も 暮れにけるかな

詞花集・恋
思ひかね けふたてそむる 錦木の 千束もまたで あふよしもがな

新勅撰集・恋
はるくれば ゆきのしたくさ したにのみ もえいづるこひを しるひとぞなき

まくり手の 袖にも恋の 隠れぬは 涙の色の しるきなりけり

病葉に 錦の紐の 解けぬれば 裏なきものは 夜の狭衣

筏士の をかはを下す みなれ棹 あげつるままに くれをまつかな

しづ機に 織るてふ布の 狭ければ つねにも逢はぬ 胸ぞ苦しき

たまほこの 道ゆく人も はづかしく 恋はけしきの しるくやあるらむ

涙河 よをうきふねの なぎさには 思ひ絶えせぬ 綱手ひくなり

つらさのみ かたみにそへて くれは鳥 あやなや袖の なほ濡るるかな

象潟や 海士の苫屋の 藻塩草 うらむることの 絶えずもあるかな