和歌と俳句

明石

万葉集 人麻呂
燈火の明石大門に入らむ日や漕ぎ別れなむ家のあたり見ず

人麻呂
天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ

門部王
見わたせば明石の浦に燭す火の穂にぞ出でぬる妹に恋ふらく

赤人
明石潟潮干の道を明日よりは下笑ましけむ家近づけば

古集
粟島に漕ぎ渡らむと思へども明石の門波いまだ騒けり

古集
我が舟は明石の水門に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり


古今集・羇旅歌よみ人しらず
ほのぼのとあかしの浦の朝霧に 島がくれゆく舟をしぞ思ふ

後拾遺集・羇旅 中納言資綱
おぼつかなみやこの空やいかならむこよひあかしの月をみるにも

後拾遺集・羇旅 返し 繪式部
ながむらむあかしのうらのけしきにて都の月を空にしらなむ

後拾遺集・羇旅 帥前内大臣
ものをおもふ心のやみしくらければあかしの浦もかひなかりけり

源氏物語・明石
嘆きつつ明石の浦に朝霧の立つやと人を思ひやるかな

金葉集・秋 平忠盛朝臣
有明の月もあかしの浦風に波ばかりこそよると見えしか

千載集・秋 俊恵
ながめやる心のはてぞなかりける明石の沖に澄める月かげ

千載集・秋 俊恵
夜をこめて明石の瀬戸を漕ぎ出ればはるかに送るさを鹿のこゑ

新古今集・雑歌 藤原秀能
明石がた色なき人の袖を見よすずろに月もやどるものかは

清輔
霧の間に 明石のせとに 入りにけり 浦の松風 音にしるしも

俊成
ながむれば雲は浪地に消えつきて明石の沖にすめるかな

西行
なべてなき所の名をや惜しむらむ明石はわきて月のさやけき

西行
月さゆる明石のせとに風吹けば氷の上にたたむしら波

西行
月を見て明石の浦を出る舟は波のよるとや思はざるらむ

西行
夜もすがら明石の浦の波の上に影たたみおく秋の夜の月

寂蓮
うきねする 明石の沖の 波の上に 思ふ程にも すめる月かな

俊成
明石潟えじまをかけて見渡せば霞のうへも沖つ白波

良経
霧深き明石の沖に漕ぎ行くを嶋かくれぬと誰ながむらむ

良経
明石潟うらこぐからに友ちどり朝霧隠れ聲かはすなり

俊成
いにしへの嶋のほかまで見ゆるかな明石の浦のあけぼのの空

俊成
聞きおきし明石の浦の秋の月みるは限りの猶なかりけり

定家
浪の上の月を郡のともとしてあかしのせとを出づるふなびと

良経
明石潟すまもひとつに空さえて月に千鳥も浦つたふなり

雅経
明石潟 月ゆゑならぬ ながめまで 晴れて寂しき 波の上かな

定家
波風の月によせくる秋のよをひとりあかしのうらみてぞみる

定家
明石潟いざをちかたも白つゆのをかべの里のなみのつきかげ

定家
ともし火のあかしのおきの友ぶねも行く方たどる秋の夕ぐれ

良経
夏の夜を明石のせとの波の上に月ふきかへせ磯の松風

新勅撰集・秋 藤原光俊朝臣
あかしがた あまのたくなは くるるより くもこそなけれ 秋の夜の月

続後撰集・秋 順徳院御製
明石潟 あまのとまやの 煙にも しばしぞくもる 秋の夜の月


芭蕉
蛸壺やはかなき夢を夏の月

其角
明石より神鳴はれての蓋

其角
小くらから古郷の月や明石潟

荷兮
面櫂やあかしの泊り郭公

良寛
濱風も 心して吹け ちはやふる 神の社に 宿りせし夜は



沖さかる船人をらび陸どよみ明石の濱に夜網夜曳く


瀬戸の海きよる鰯は彌水の潮の明石の潮に曳く


明石潟あみ引くうヘに天の川淡路になびき雲の穗に歿る


茅淳の海うかぶ百船八十船の明石の瀬戸に眞帆向ひ來も

晶子
君と在るくれなゐ丸の甲板も須磨も明石もうす雪ぞ降る

草城
明石海峡朝ぐもりして今朝の秋

誓子
いにしへも明石大門に南風怺へ

誓子
春暁の汽笛明石の大門なり