秋の野は こぼれぬ露に しるきかな 花みるひとも まだ来ざりけり
まがきなる 花につけても 思ふかな いまいくとせの 秋か見るべき
いづちとて さして行くらむ 山たかみ 朝ゐる雲に 消ゆる雁がね
天の原 とわたるつらに くせよとや 頼むの雁の こゑあはすらむ
続後撰集・秋
たかさごの をのへの風や 寒からむ 裾野のはらに 鹿ぞなくなる
いかなれば 妹背の山に すむ鹿の またかさねては 妻をこふらむ
おもふこと 残らぬものは 鹿のねを ききあかしつる 寝覚めなりけり
千載集・秋
竜田姫 かざしの玉の 緒をよわみ 乱れにけりと 見ゆる白露
たつたひめ おけるものとや 思ふらむ あくれば消ゆる 露のしらたま
秋風に あれのみまさる 山里は きりの籬ぞ 曇りなりける
山の端の 月まちいでて 見るのみや 思ふにものの たがはざるらむ
ゆく駒の 爪のかくれぬ 白雪や ちさとのほかに すめる月影
たに川に やどれる月の 浮雲は いはまによどむ みくさなりけり
いまよりは ふけゆくまでに 月はみし そのこととなく 涙おちけり
くもりなき ますみの月や 天にます とよをかひめの 鏡なるらむ
千載集・秋
塩竃の 浦吹く風に 霧晴れて 八十島かけて 澄める月かげ
よとともに 山の端いづる 月影の 今宵みそむる ここちこそすれ
月みると 閨へもいらず しろたへの 袖かたしきて あかすころかな