ももつての 波路に秋や 立ちぬらむ せとのしほ風 袂すずしも
山里は 庭のむらくさ うら枯れて 蝉のなくねも 秋めきにけり
おもひやる 心もすずし 彦星の 妻まつ宵の あまのかは風
花ぞめの 衣はかさじ たなはたに かへる色とて 忌みもこそすれ
おもひやる けさの別れは 天の川 わたらぬ人の 袖もぬれけり
新勅撰集・秋
あまのがは みづかげぐさに おく露や あかぬわかれの 涙なるらむ
たなばたや おのがきぬぎぬ なりぬらむ 空なる雲の なかのたえぬる
たなばたは 天のたまゆか うち払ひ 心もとなく 暮れを待つらむ
けふばかり あまのかは風 こころせよ 紅葉のはしの とだえもぞする
たなばたは わたりもやらじ 天の川 紅葉のはしの ふまば惜しさに
たなばたの 雲のはたてに 思ふらむ 心のあやも われにまさらじ
わがやどの もとあらの萩の 花ざかり ただひとむらの 錦なりけり
ふしわぶる 萩のたちえを はかりにて かかれる露の 重さをぞ知る
こはぎはら やなぎさくらを こきまぜし 春のにしきも しかじとぞ思ふ
さもあらばあれ あるじはいかに 思ふとも をみなへしには 身をもかへてむ
いと薄 すゑ葉における 夕露の 玉の緒ばかり 綻びにけり
たづねつる 心やしたに かよふらむ うち見るままに まねくすすきは
荻原と よそにききつる 風の音の 袂にちかく 吹きそふるかな
新古今集・秋
薄霧の まがきの花の 朝じめり 秋は夕べと たれかいひけむ