和歌と俳句

藤原清輔

ゆくすゑの 人にもいかが 語るべき いはむかたなき 夜半の月影

いそかへり わがよの秋は 過ぎぬれど 今宵の月ぞ ためしなりける

いかなれや 花も紅葉も をりこそあれ 年のひととせ あかぬ月影

小夜ふかく 月にあけたる 槙の戸に 人の心の 内ぞ見えける

世の中の なさけも今は 失せにけり 今宵の月に 人のさは寝ぬ

ひとごとに よもさらしなと 思ひしに きくにはまさる 姨捨

伊勢の海 をふのうらなし したはれて なりもならずも 見ゆる月影

唐衣 そでしのうらの 月影は むかしかけたる たまにやあるらむ

山里の 紅葉も月も あかけれど おなし色には 見えずぞありける

ゆふたすき おもひがけずも 見ゆるかな 野守にすめる 月よみの神

なにとなく 心すみてや いでつらむ 月にさをさす 与謝の浦人

ひかりをや さしかはすらむ もろこしの たまつむ舟を 照らす月影

しきたへの 枕においつる 月みれば あれたる宿も うれしかりけり

たまくらに かきやる髪の 乱れまで くもりも見えぬ 秋の夜の月

くまもなき 月をも見てや あかすらむ 伏見の里の 人ぞゆかしき

むらさきの 根はふ横野に 照る月は その色ならぬ 影もむつまし

人知れず かたわれ月ぞ うらめしき 誰に光を わけて見すらむ

夜もすがら 人をさそひて 月影の はてはゆくへも 知らで入りぬる

見るからに 影はづかしき 身なれども 月にはえこそ しのばざりけれ

みなそこに やどれる月の 影をこそ しづめる人は 見るべかりけれ