和歌と俳句

貫之
散りぬべき 山の紅葉を 秋霧の やすくも見せず たち隠すらむ

貫之
山路にも 人やまどはむ 川霧の たち来ぬさきに いざ渉りなむ

後撰集 貫之
秋霧の立ぬる時はくらぶ山おぼつかなくぞ見え渡ける

後撰集 貫之
花見にと出でにし物を秋の野の霧に迷て今日は暮らしつ

後拾遺集 和泉式部
晴れずのみものぞ悲しき秋霧は心のうちに立つにやあるらん

匡房
川霧の みやこのたつみ 深ければ 底ともみえぬ 宇治の山里

国信
岩走る 音は隠れず 夕霧の ころもの滝を たちこむれども

師頼
吉野川 わたりも見えぬ 夕霧に やなせの波の 音のみぞする

顕季
しらなみの 音ばかりして 見えぬかな 霧たちわたる 玉川の里

源顕仲
水まさる 千曲の川は われならず 霧も深くぞ たちわたりける

仲実
みたやもり 鳴子の縄に 手かくなり 晴れ間も見えぬ 霧のみなかに

師時
秋霧の そまやまかはに たちぬれば くだす筏の 音のみぞする

藤原顕仲
夕霧に 道やまどへる 宮木ひく そまやま人も 友呼ばふなり

基俊
秋山に 入りにし人の 恋ひしきに 麓をこめて 霧たちにけり

隆源
川霧に 渡瀬も見えず をちこちの 岸に舟呼ぶ 声ばかりして

京極関白家肥後
つまきこる 小野の山辺も 霧こめて しばつみくるま 道やまどへる

祐子内親王家紀伊
秋霧の たち隔てたる 麓には をちかた人ぞ うとくなりゆく

前斎宮河内
いかにせむ たづきもしらぬ やまなかに かへらむかたは 霧たちにけり

詞花集 源兼昌
夕霧にこずゑもみえずはつせ山いりあひの鐘の音ばかりして

清輔
霧の間に 明石のせとに 入りにけり 浦の松風 音にしるしも

清輔
秋風に あれのみまさる 山里は きりの籬ぞ 曇りなりける

西行
穗に出づるみ山が裾のむら薄まがきにこめてかこふ秋霧

式子内親王
をしこめて秋の哀にしづむかな麓の里の夕霧のそこ

定家
ながめする夕の空も霧立ちぬへたたりゆくはむかしのみかは

定家
秋のきて風のみ立ちし空をだにとふ人はなき宿のゆふぎり

定家
さざなみや志賀の浦ぢのあさぎりに真帆にも見えぬ沖の友舟

良経
山里はひとり音する松風をながめやるにも秋の夕霧

定家
飛鳥川ふちせも知らぬあきのきり何にふかめて人だつらむ

定家
ゆふ霧のこととひわびぬ隅田川わが友舟もありやなしやと