和歌と俳句

葛の花

葛花や何を尋ねてはひまはる 子規

山葛のわりなき花の高さかな 子規

葛の葉の吹きしづまりて葛の花 子規

むづかしき禅門でれば葛の花 虚子

牧水
みねの風けふは沢辺に落ちて吹く広葉がくれの葛の秋花

葛の花と聞きしが淋し下山道 茅舎

葛の花四五聯かけて巌かな 泊雲

葛の花が落ち出して土掻く箒持つ 碧梧桐

迢空
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり

茂吉
葛の花さきぬるみればみすずかる信濃に居たるころしおもほゆ

花葛のひきおろされてあらけなや 多佳子

今落ちしばかりの葛は赤きかな 立子

奥つ瀬のこだまかよふや葛の花 秋櫻子

新しき葛の落花に佇みぬ 立子

葛の花釣りある駕に這ひ渡り 花蓑

たゝなはる八重山みちや葛の花 淡路女

裏山に一つの道や葛の花 喜舟

葛の花ひとりの湯浴みあけはなつ 秋櫻子

鹿の湯と名に負ふ温泉あり葛の花 秋櫻子

わが行けば露とびかかる葛の花 多佳子

花葛や馬柵をぬけゆく詣で道 野風呂

花葛の濃きむらさきも簾をへだつ 多佳子

花葛や巌に置かれし願狐 鳳作

熔岩を伝ふ筧や葛の花 鳳作

茂吉
幾たびかこの道来つつ葛の花咲き散らふまで山にこもりぬ

雷遠く雲照る樺に葛さけり 蛇笏

葛の花こぼれて石にとどまれり 青邨

花葛に兼好の言わかりけり かな女

花葛の谿より走る筧かな 久女

這ひかかる温泉けむり濃さや葛の花 久女

葛の花見て深吉野もしのばゆれ 石鼎

馬柵直に嶺よりくだる葛の花 秋櫻子

兎跳ね犬をどり入る葛の花 秋櫻子

馬柵による波かぎりなし葛の花 秋櫻子

咲き垂れて谿風あぐる吉野葛 友二

葛咲くや嬬恋村字いくつ 波郷

葛咲くやいたるところに切通 槐太

葛の花次第にかなし故郷のうた 知世子

挽臼にとりつく母娘葛の宿 風生

葛の咲く谷なり利根のながれいづ 秋櫻子

瀬の魚の生簀ちひさし葛の花 秋櫻子

葛咲くや父母は見ずて征果てむ 波郷

翡翠の巣かけしあとや葛の花 秋櫻子

葛の花母見ぬ幾年また幾年 波郷

葛垂るる胸算用をたたみ出づ 波郷

濡れし肋に水ほとばしり葛の花 楸邨

山桑をきりきり纏きて葛咲けり 風生

堰堤に匍ほもとほれる葛の花 風生

桟も今は安けし葛の花 たかし

葛咲ける子不知に来て子を恋ふも 登四郎

石灰ふれり葛たるゝ崖の真上より 登四郎

葛滴り歪みリヤカーよく働く 登四郎

円匙鶴嘴泉辺の葛無慙なり 登四郎

なだれくる真葛を堰けり雪崩止 登四郎

かくれゆく旅のごとしや葛の渓 登四郎

渓の湯に葛ながれ身も流るゝなり 登四郎

渋の湯の裏ざまかくす葛の花 秋櫻子

捨て猫の舌の長さよ葛の花 波郷

葛咲くや濁流わたる熊野犬 秋櫻子

いちりんの花葛影を見失ふ 鷹女

葛の花流人時忠ただ哀れ 誓子

朝霧浄土夕霧浄土葛咲ける 秋櫻子

車窓ふと暗きは葛の花垂るる 風生

細道は鬼より伝受葛の花 静塔

いづかたも脚下なりけり葛の花 耕衣