野崎まつりの餅のまろし菊の秋
静かなる二百十日の萩を剪る
しかと着て身に沁む紺の絣かな
鹿寄せの笛まだ鳴らず秋の暮
秋の暮山の木なべて日になびく
奈良墨の店に秋果つ暖簾かな
紅染めし燈籠水を廻すかな
乙女さび青き裳つけぬ星の宵
ふた星に隙なく青し棚あけび
人形に魂を入れてをり秋の人
秋時雨音して来たり手向山
鹿苑に御仏の顔せる鹿の
鵯に安芸の島山濃かりけり
鈴虫に須磨の人とて遙かかな
馬の瞳哀れ照葉の紅ひに
桔梗をやゝめづる人なり忌の人は
朝顔に人のぬくみを避けてあり
花葛に兼好の言わかりけり
龍胆を畳に人の如く置く
コスモスの枯るゝ雨音夜の炉に
花蘆に東近江の寒き風
河童忌や無花果を葉に盛り上げて
谿の上に夜となる宿や柚の郷
玉蜀黍に投げれば薪の消へにけり