和歌と俳句

鹿

武蔵野や一寸ほどな鹿の声 芭蕉

ひれふりてめじかもよるや男鹿嶋 芭蕉

びいと啼尻声悲し夜の鹿 芭蕉

暮の山遠きを鹿のすがた哉 其角

追ひあげて尾上に聞かむ鹿の声 北枝

ながき夜をひとりは寝じと鹿の鳴 千代女

鹿寒し角も身に添ふ枯木哉 蕪村

さくらさへ紅葉しにけり鹿の声 蕪村

鹿ながら山影門に入日哉

三度啼て聞えずなりぬ鹿の声 蕪村

折あしく門こそ叩け鹿の聲 蕪村

鹿鳴くや宵の雨暁の月 蕪村

卯の花の夕べにも似よしかの声 蕪村

立聞のこゝちこそすれしかの声 蕪村

鹿啼てははその木末あれにけり 蕪村

聞はづす声につゞくや鹿の声 太祇

鹿の声高根の星にさゆるなり 青蘿

角の上に暁の月や鹿の声 青蘿

声暗しひるは別れて啼鹿か 白雄

鹿の声をばなの末にかゝるかな 暁台

こけ猿も夜たゞ佗らむ鹿の声 暁台

鳴川の戸に寄鹿や下駄の音 召波

ぬれ色に起行鹿や草の雨 召波

一の湯は錠の下りけり鹿の鳴 一茶

小男鹿の水鼻ぬぐふ紅葉哉 一茶

鳴鹿にまくしかかるや湯のけぶり

足枕手枕鹿のむつましや 一茶

良寛
百草のみだれて咲ける秋の野にしがらみふせてさを鹿の鳴く

良寛
夕ぐれに國上の山をこえ来れば高根に鹿の聲を聞きけり

良寛
秋萩のちりのまがひにさを鹿の聲の限りをふり立てて鳴く

良寛
長き夜にねざめて聞けばひさがたの時雨にさそふさを鹿のこゑ

曙覧
あはれなり角ある鹿もたらちねの柞のかげを去うげに鳴