和歌と俳句

落ち鮎 澁鮎

さびたりとも鮎こそまさめたゞの石 素堂

さび鮎も髭にふれずや四十年 素堂

落鮎や一夜高瀬の波の音 北枝

落鮎のあがきの水やうさか川 涼菟

鮎落て宮木とどまる麓かな 蕪村

鮎おちて焚火ゆかしき宇治の里 蕪村

落鮎や潮の闇に沈むまで 暁台

落鮎や畠もひたす雨の暮 几董

今は身を水に任すや秋の鮎 几董

渋鮎を灸り過たる山家哉 几董

落鮎のあはれや一二三の簗 白雄

落鮎や小石小石に行きあたり 子規

落鮎にはねる力はなかりけり 子規

澁鮎のさりとて紅葉にもならず 子規

澁鮎の岩關落す嵐かな 子規

鮎落ちぬ草庵の硯凹みけり 碧梧桐

旅心定まるや秋の鮎の頃 碧梧桐

渋鮎や石拾ひしに出水して 碧梧桐

川澄んで後ろさがりに鮎落つる 鬼城

落鮎に水摩つて行く投網かな 鬼城

牧水
岩山の 黄葉ちり積る 渓のおくに いまだ居にけむ この錆鮎は

牧水
落鮎の 姿は痩せたれ 岩出でて 黄葉でし渓を おもひつつ食ふ

落鮎や海となりたる蘆の風 喜舟

長良川落鮎の水の顔がほてつて 碧梧桐

落ち落ちて鮎は木の葉となりにけり 普羅

下り鮎一聨過ぎぬ薊かげ 茅舎

草の実をゆひ栞あり下り鮎 青畝

下り鮎しづく床磐の瀬綾とも 石鼎

落鮎を待つ簗さむし幣白く かな女

落鮎の風吹き出して下り次ぎぬ かな女

鮎落つる水来てかしぐ雄神橋 普羅

渋鮎を焼く入口の炉をまたぐ 普羅

鮎落つる水勢きこゆる二階かな 普羅

二三疋のこれる鮎に瀬音かな 石鼎

落鮎に星曼荼羅の深夜かな 楸邨

鮎落ちて昨日の淵となりにけり 楸邨

鰭さきの朱ヶほのかなる秋の鮎 蛇笏

深吉野や瀬々に簗まつ下り鮎 石鼎

寂鮎の瀬の末にして淀あをき 秋櫻子

滝落ちて秋鮎の瀬の霧となる 秋櫻子

流水や落鮎しげき嵐あと 秋櫻子

寂鮎をつらぬく串に炎立つ炭 秋櫻子

秋鮎や宿も瀬も古る千曲川 秋櫻子

錆鮎やいたはられゐる小盃 波郷

落鮎の遠ざかりけり一つ簗 静塔

鮎の目の一言いひて横たはる 静塔

鮎落ちてしまひたるらし瀬の荒び 悌二郎

落鮎の揖保の流れに子を孕む 青畝

落鮎の山川昨日のにごりなし 爽雨

落鮎の薬餌の腸も食ふべけり 爽雨