和歌と俳句

正岡子規

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

捨笠をうてばだまるやきりぎりす

蜻蛉の中ゆく旅の小笠哉

秋の蝶長柄の笠に宿りけり

下し来るの中也笠いくつ

下駄箱の奥になきけりきりぎりす

叩く尾のすりきれもせず石敲き

鶺鴒の飛び石づたひ来りけり

飛ぶさまや尾につらさるゝ石叩き

鶺鴒や岩を凹める尾の力

鶺鴒の尾にはねらるゝ蚯蚓哉

鶺鴒の糞して行くや石佛

汐風にすがれて鳴くやきりぎりす

の鳴く隅々暗し石灯籠

鶺鴒や欄干はしる瀬田の橋

啼て秋の日和を定めけり

雀ほど鶸鳴きたてゝ山淋し

情なう色のさめたり秋の蝶

澁鮎のさりとて紅葉にもならず

ぬかづけばなくやどこでやら

我なりを見かけてのなくらしき

の人をよぶやら山淋し

鶺鴒よこの笠叩くことなかれ

神に灯をあげて戻れば鹿の声

澁鮎の岩關落す嵐かな

螳螂も刀豆の實にくみつくか

秋の蝶動物園をたどりけり

軍艦の帆檣高し渡り鳥

蚯蚓鳴けば蓑虫もなく夕哉

宮嶋に汐やふむらん月の鹿

山里に魚あり其名紅葉鮒

や金箱荷ふ人の息

砂濱にとまるものなし赤蜻蛉

啼くや一番高い木のさきに

鰯ひく數に加はるわらは哉

押しよせて網の底なる鰯哉

鈴虫や土手の向ふは相模灘

啼くや灘をひかえた岡の松