正岡子規
初雪やかくれおほせぬ馬の糞
茶の花や利休の像を床の上
親鳥のぬくめ心地や玉子酒
白梅にうすもの着せん煤拂
何もかもすみて巨燵に年暮るゝ
雪よりも時雨にもろし冬牡丹
凩に舞ひあがりたる落葉哉
雪の跡さては酒屋か豆腐屋か
招く手はなけれど淋し枯薄
いぶかしや賎が伏家の冬牡丹
冬枯の中に家居や村一つ
雪のある山も見えけり上り阪
祇園清水冬枯もなし東山
盆栽に梅の花あり冬ごもり
白雪をつんで小舟の流れけり
凩や迷ひ子探す鉦の音
鐘つきはさびしがらせたあとさびし
濁り井の氷に泥はなかりけり
木枯や木はみな落ちて壁の骨
小烏の鳶なぶりゐる小春哉
頭巾きて老とよばれん初しぐれ
三日月を相手にあるく枯野哉
秋ちらほら野菊にのこる枯野哉
冬がれや田舎娘のうつくしき
夕日負ふ六部背高き枯野哉
埋火や隣の咄聞てゐる
小春日や浅間の煙ゆれ上る
木枯やあら緒くひこむ菅の笠
順禮の笠を霰のはしりかな
神の代はかくやありけん冬籠
水鳥の四五羽は出たり枯尾花
千鳥なく灘は百里の吹雪哉
水鳥のすこしひろがる日なみ哉
枯あしの雪をこぼすやをしのはね
鷹狩や陣笠白き人五人
枯あしや名もなき川の面白き
馬の尾に折られ折られて枯尾花
わらんべの酒買ひに行く落葉哉
順禮一人風の落葉に追はれけり
苫の霜夜の間にちりし紅葉哉