和歌と俳句

落葉

宗因
さびしさにたへし跡ふむ落葉哉

芭蕉
百歳の気色を庭の落葉哉

許六
手ざはりも紙子の音の落葉哉

也有
老僧の仕事出来たる落葉かな

也有
こちの木を隣でもはく落ば哉

蕪村
乗物をしづかに居る落葉かな

蕪村
屋根ふきの落葉を踏や閨のうへ

蕪村
茶ぶくろを捨るところも落葉かな

蕪村
西吹ばひがしにたまる落葉かな

蕪村
落葉して遠く成けり臼の音

蕪村
舂臼の心落ちつく落葉かな

蕪村
待人の足音遠き落葉哉

蕪村
菊は黄に雨疎かに落葉かな

蕪村
古寺の藤あさましき落葉哉

蕪村
往来待ちて吹田をわたる落ば哉

白雄
日に悲し落葉たゞよふ汐ざかひ

太祇
中窪き径わび行落葉かな

太祇
人疎し落葉のくぼむ森の道

太祇
藤棚のうへからぬける落ばかな

几董
二度までは箒とりたる落葉哉

一茶
おち葉して仏法流布の在所哉

一茶
おち葉してけろりと立ちし土蔵哉

一茶
淋しさやおち葉が下の先祖達

一茶
猫の子がちよいと押へるおち葉哉

子規
わらんべの酒買ひに行く落葉哉

子規
順禮一人風の落葉に追はれけり

一葉
散たまるふもとの落葉わけて思ふ埋もれぬべき雪の山里

子規
湖の上に舞ひ行く落葉哉

子規
三尺の庭に上野の落葉かな

虚子
我庵は大文字山の落葉かな

虚子
藍流す音無川の落葉かな

虚子
落葉してあそこここなる古墳かな

子規
谷底にとどきかねたる落葉哉

漱石
吹き上げて塔より上の落葉かな

左千夫
ちりひとつなしと歌われし吾庭の荒れにけるかも落葉つみつつ

左千夫
石にまとひ木の根にまとひ落葉らはおのがまにまにたむろせるみゆ

左千夫
恵林寺の門の長道二側に栗の並木は落葉せりけり

碧梧桐
左右にある殉死の塚の落葉かな

碧梧桐
立岩の裏も神ある落葉かな

碧梧桐
陣の跡地を走る風の落葉かな

碧梧桐
蘆の中の水に溜れる落葉かな

鬼城
落葉して心元なき接木かな

水巴
打ち返しある山畑の落葉かな

落葉すやしづかに庫裡の甕の水 蛇笏

笊干すや垣の落葉に遠き山 蛇笏

絵馬堂の内日のぬくき落葉かな 蛇笏