和歌と俳句

冬の雲

冬雲を破りて峯にさす日かな 鬼城

冬雲の降りてひろごる野づらかな 鬼城

晶子
二もとの裸銀杏を前にして火を焚くうへの冬の日の雲

冬の雲月を去なして霽れにけり 万太郎

冬雲や峯木の鴉唖々と啼く 蛇笏

バス来らず嶺の冬雲累なり来 波郷

白秋
巓の 裏行く低き 冬の雲 榛名の湖は 山のうへの湖

子を呼べり冬雲の下に一日ゐし 楸邨

冬雲に甲板短艇を支へ航く 多佳子

熔岩をゆき冬雲厚き日なりけり 波津女

冬の雲春信ゑがく黄の帯か 青邨

噴煙を追ふつぎつぎの冬の雲 素十

冬の雲一箇半箇となりにけり 耕衣

冬雲の北のあをきをわが恃む 多佳子

冬雲獲て蘆ことごとく立ち騒ぐ林火

楸邨
冬雲にたたかへる間も地球めぐる

楸邨
冬雲や北斗杓より没し去る

楸邨
暁の冬雲星を吐きにけり

楸邨
火の中に入りゆく冬の雲一朶

たかし
東京の上の冬雲襤褸のごと

たかし
今日会へばまた散り散りや冬の雲

鷹女
冬雲の行方を誰が知りませう

青畝
時刻来てともる燈台冬の雲

波郷
束の間や寒雲燃えて金焦土

草田男
食は腹に落ちゆき冬雲厚くなれり

普羅
冬雲の下に蝗は居ずなりぬ

青畝
卵黄のごとく日にあり冬の雲

三鬼
冬雲と電柱の他なきも罰

たかし
濤来り冬雲来る岬に立つ

万太郎
冬の雲ひそかに藍を刷きにけり

誓子
寒雲擦過してゆく吾が頭上

誓子
頭上過ぎ去りし寒雲高さつづけ

虚子
光りつゝ冬雲消えて失せんとす

風生
あはあはと心の翳と冬の雲

青畝
わたつみを抱く陸めける冬の雲

風生
紺天へむしりては投げ冬の雲

悌二郎
病む鱒の死力群追ふ冬の雲

悌二郎
冨士をひと目許して厚き冬の雲

波郷
冬雲の遊び点滴懸架台

悌二郎
冬の雲さすがに冨士を犯すなし