和歌と俳句

山口誓子

電燈の煤黒寒の墨造り

生きものの酒ぶくぶくと寒造り

巌動かず渦潮の自在境

渦潮の底を思へば悲しさ満つ

渦潮を両国の岬立ちて見る

渦潮の衰ふるまで鵜が岩に

強東風に鳴門わが髪飛ばばとべ

湧きかへる春潮船と淡路の隙

春潮の迅き船廊鮮魚の籠

暮遅し潮いくばくあるか知らず

架橋行く眼にもとまらぬ雪解川

合流する雪解の両つ川渡る

合ふまでは違ふ流速雪解川

雪解川合ふ間際まで千曲やさし

雪解合ひまた幾曲の千曲川

汁熱き諏訪の蜆の白肉食ふ

吾老いず蝶の角にて軽打され

さくら満ち一片をだに放下せず

芽落葉松靴の厚泥削ぎ落す

低咲きの岬の薊大海原

燈台の光源夏のゆふ迫る

田植衆憩ひて飲みも食ひもせず

手に挟み牡丹の面をまざと見る

苗代にいのち噴かざる籾が見ゆ