玄海の冬浪を大と見て寝ねき
北風荒れて帆綱の軋り寝ても聞きぬ
北風強く水夫のバケツの水を奪る
北風強く水夫の口より声攫ふ
ペーチカを焚きてつめたき港あり
ペーチカや遅きあしたの海港に
ペーチカや碇泊の船も煙立つ
芝枯れて瑠璃照壁のごと海は
ペーチカや弾琴次の間に黒き
大枯野傾き山を低うせる
草枯れぬ戦をかかる丘にせし
塹壕はあさくことしの草も枯れぬ
馭者の声枯れし麓の野に待てる
墓地枯れぬ戦死者国を亡へり
城塁の枯路ゆかむとしてやみぬ
来ておどろく軍港の冬あたたかき
冬の館弾痕を梁に厚壁に
外套や二百三米突の丘の上に
草枯れしあさき塹壕に下りて見る
枯れ土に銃弾落ちてにほひけむ
ただ見る起き伏し枯野の起き伏し
加農砲天地凍れる夜を昼を
将軍の戦利あらず壕凍てし
乃木少尉落葉松枯れし地にますかや
落葉松は枯れてゆふ日に堪へがたき