和歌と俳句

山口誓子

医の家の機械細しき吸入器

吸入器雲母を窓に火を焚けり

吸入器看護婦の手にしづめらる

少年の早くも夏は腋にほふ

薔薇熟れて学課けだるくなりまさる

肋木のあばらは薔薇の垣の上に

薔薇熟れて空は茜の濃かりけり

薔薇垣の夜は星のみぞかがやける

紅き帆の練習船の走馬燈

走馬燈船の上にも海を描く

走馬燈死にゆくふたり舟を漕ぐ

青潮の流れ著き走馬燈

蟷螂の斧をねぶりぬ生れてすぐ

蟷螂の樹を攀ぢのぼる生れてすぐ

めつぶれる瞼や風邪のタイピスト

樺色の頬紅風邪のタイピスト

香料のえならぬ風邪のタイピスト

とつぐとき過ぎつつ風邪のタイピスト

大演習火砲のもとにまどろめる

大演習葡萄もみづる丘のさき

大演習刈田の畦に戦やむ

ラグビーのジャケツちぎれて闘へる

ラグビーのみな口あけて駆けり来る

ラグビーの垢面の子等地に憩ふ