和歌と俳句

山口誓子

一隅

比叡愛宕この空間に寒さ凝る

高嶽は高きにを捧げ持つ

壁炉にて火となりし薪透きとほる

ドア締めし音に壁炉の薪崩る

始発駅入り来る空のスキー列車

発掘を埋めし土に草芽ぐむ

清姫のヘヤピン落ちて麦の秋

葉脈の美よ柏餅食べ終る

武具かざる光る眼も手も足もなし

田を植ゑて大和河内の青つづく

天高き処に更に登山口

神います山の堀りて売る

白毫は白万緑を凝らすとも

真裸に祭半纏直かに被て

祭太鼓打ち込む撥と若き身と

山車統べて鎧皇后立ち給ふ

立つ吾の肉を震はす祭太鼓

雷雲に枝ぎざぎざのテレビ塔

夕立雲強きが弱き雲を食ふ

夕立雲大和へ越えて大和暗し

堂塔を深夜に立たすいなびかり

舟虫の猜ひ深き日本海

瀬に沁みて奈良までとどく蝉のこゑ

ひと見えずして街道へ水を打つ

山坊の冷やしタオルの恩を享く

蓮弁の崩れてゐるは此の世なり