濡れづめの氷柱が滝の中に立つ
雪の駅駅丁寧に停めり行く
女座の局に吾も修二会見る
髪を撫づ修二会香煙手に受けて
聖霊会迦陵頻伽の翅なよなよ
梅近く見るその蕊の長睫毛
凍て滝に白玉楼といふ語あり
雪洞は仰向きさくら俯向ける
春潮に飛島はみな子持島
一隅の蝌蚪のかたまり墨こぼし
ラレレラと水田の蛙鳴き交す
雲丹の壺海はどこにも潮忘る
眼をとむる神体山の花菫
清姫の黒き執念磯若布
蜘蛛の囲にかかり蛍火はや食はる
鳥居立つ大白滝を敬へと
大滝は裾の乱れをつくろはず
火なき舟沖に鯖火をつけに行く
雲の峰潰え一切無に帰せり
生きて吾在り渦潮の中に在り
播州野月蹤いて来る蹤いて来よ
蟷螂の真黒になり生きつづく
熊の子が飼はれて鉄の鎖舐む
海を行く妙義生れの虎落笛
もがりぶえとぎれとぎれのものがたり
神懸を写し青嶺が石となる
舟虫生かす築城残石は
海草の打ち揚げられし遍路道
焚火の穂こころの如く定まらず
火を焚きて衰太陽を励ませり