和歌と俳句

平畑静塔

新春の人立つ書肆に今日も来る

壮大なる俘虜が初湯におぞましや

赤煮えの蜑が初湯を出て歩く

うづたかし二日の磯に蜑が糞

山や野を歩き元日熟睡す

初日差しこむすごい暗さの町工場

初夢うつつほほゑみの国にあり

飛騨に帰りて餅花の下畏れ

餅花や飛騨の高窓何か見せ

鏡餅立山の民麓なり

「黒髪」の御山の許す寝正月

かんばせを見せてとまりし初烏

備の国の年木見る目に重重し

初みくじ大国主に蝶むすび

初浪の青海波にて矩こえず

庭川と見えてし利根の二日かな

去年今年障子明りに襲はれし

正月やつちくれざまの小墓撫で

盛り土に初日たつぷり土工居ず

年始客降りて泊舟ゆらゆらす

くらがりの凸凹の餅つかみ出す

読み初めの近親や細字馬太伝

横切りし春著白妙の痕目守る

薬室に春着の袖をひるがへす

袖をでる乳子のこぶしと恵方行