和歌と俳句

中村汀女

屠蘇注ぐや袂の隙に炭赤し

縫始め今暖めて来し手かな

人のうしろに襟合せたり初鏡

福寿草紙風船とあることも

ひややけく神おはしけり初竃

初刷に廚のものは湯気立つる

人のつく手毬次第にさびしけれ

薺摘む頬にしたがへる雪の阿蘇

ひとり摘む薺の土のやはらかに

文書くもかごとも日向福寿草

初凪の遊覧船の高浮び

手毬唄おぼえしころの任地かな

雪空のところもかへず羽子をつく

つく羽子の音のつづきに居る如し

次の子も屠蘇を綺麗に干すことよ

若菜摘む人を恋ほしく待つ間かな

ぢやんけんに今日の春着の長袂

羽子つけば四方の谺に松秀で

初夢のほのぼのと子に遠きかな

おのがじし炭斗満たし去年今年

松納む月明かかりし一夜明け

切山椒浅草はかく去りがたき

初富士や母を珠ともたとふれば

かくぞとて幼なに持たす屠蘇の杯

裏白や父が飾れば青まさり