和歌と俳句

中村汀女

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昼餉一家に恥ぢ通りけり鳳仙花

飛ぶ傘持て来しが悔いらるる

投網首に掛けて人来る彼岸花

泣きし子の頬の光りやとぶ蜻蛉

身かはせば色変る鯉や秋の水

張板抱へて廻れば眩しの庭

水櫛に髪しなやかや花芙蓉

我が思ふ如く人行く田かな

揚花火杉の木の間に散らばれり

傘の絹枝に触れ鳴る秋の山

樹樹の間に月の飛び石二つ三つ

鶺鴒のとみに高まり行く弧かな

食卓に早も桔梗や遠花火

梨食うぶ雨後の港のあきらかや

爽かにとりかかりけり夕掃除

朝顔の實となる窓や稲光

曼珠沙華抱くほどとれど母戀し

新涼の手拭浮けぬ洗面器

秋風にある噴水のたふれぐせ

蜻蛉に扉あけたる倉庫かな

電車待つゆきももどりも秋の雨

廻る見ゆ野分のなかの水車