菜の花の暮るるや人を待ち得たり
月に刃物動かし烏賊を洗ふ湖
乞へば茅花すべて與へて去にし子よ
春の灯の平らに頬に當るかな
くけ棣の引き絲さげて日永かな
春日傘さへぎり歩む明るさよ
春泥や甲に新らしき草鞋紐
煽られ来し蝶に面引きぬこころもち
春暁を被きて高き布団かな
行き合うてへだたる堤うららかな
貝蝶にはつしと光る渚かな
くもるとき港さびしや春浅き
街の音とぎれる間ありき草萌ゆる
地階の灯春の雪降る樹のもとに
接木するうしろ姿の晝となる
引いてやる子の手のぬくき朧かな
春の夜の港を持てる木立かな
沼の面がわれを見て居り田畦焼く
蕗の薹おもひおもひの夕汽笛
花曇ふくみし水のひややけく
搖れてゐる人がのぼりし櫻かな
春の猫もどり来しかば迎へけり
眞つ白き船の浮める躑躅かな
船影がつつじの上にふとくなる
一株のつつじ隠れの船もあり