和歌と俳句

中村汀女

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紅梅の花花影も重ねずに

春水の油も塵も河の幅

黄塵の町のかなたに接木する

峡の昼春水はゆく身のほとり

姉妹思ひ同じく春火鉢

朝の坂夜の坂今宵卒業

春の爐の障子一重の暗がりに

春雷や地階工事は地に沈み

思ひつくことたちまちに蝌蚪泳ぐ

あたたかに籬々を学校へ

恋猫に思ひのほかの月夜かな

花揺れてスヰートピーを束ね居る

一隅に遅日の厨つかさどり

母がりの裏木戸暗く春の星

誰ぞとなく春宵の墨濃にしつつ

足音も土に消え去り豆の花

風車止まりし色や春の夕

春夕べ木を挽く音の少しして

かへりみてなど藤棚のあるべしや

菜の花にばけつ叩いて子の合図

水栓に来てゐし水や花曇り

帰るべき細道見えて夕櫻

会ふ人ももとよりあらね春の月

春月や雨一日に田も濡れて

余花の雨残り少なく住み変り