春水の水音ひとつ峡を行く
厨房の火の燃えつづけ帰る雁
人声をよろこぶものに深山蝶
はらはらと真昼の雨や佛生会
旅さびし汐満つ音と春の星
蜆汁はや子も揃ふことまれに
人の死の小さき活字春火鉢
囀りの高音高音にうながされ
ヒヤシンス犬聞いてゐしわかるらし
春水に抜羽浮羽や水禽舎
如月や蜆は濡れて店頭に
紅梅や人待てば長く夕映す
紅梅や風もまた定めなきままに
夕東風や買はねど町に櫻草
口あけて一声づつの仔猫泣く
朽葉色蝶ひらひらと芭蕉林
軒の梅風ごうごうと花得たり
漕艇のきらと一文字八重櫻
春蘭や人去りぎはのさびしさに
りんりんと梅枝のべてかぜに耐ゆ
あたたかき夜やダイヤルにのぼす手も
まだよべの雨たつぷりと花豌豆
春の星夜に入る大き阿蘇の上に
少女等やいつもささやき櫻草
口笛のみな旧き歌花曇
金魚入れてすぐ 春昼の水平ら