和歌と俳句

蜆 しじみ

石一つ清き渚やむき蜆 其角

むき蜆石山の櫻ちりにけり 蕪村

みづうみの浅瀬覚えつ蜆取 召波

土舟や蜆こぼるゝ水のおと 白雄

待つ日には来であなかまの蜆売 几董

すり鉢に薄紫の蜆かな 子規

手に満つる蜆うれしや友を呼ぶ 子規

口あいて居れば釣らるる蜆かな 碧梧桐

砂川の松こまやかや蜆取 碧梧桐

つくろへるところの青き蜆籠 風生

病間や花に遅れて蜆汁 龍之介

窓あけて居る朝の女にしじみ売 放哉

ほのぼのと深き蜆や水の底 石鼎

蜆川うす曇りして水の濃き 蛇笏

鳴きもする諏訪の蜆や汽車の中 喜舟

ふるさとに旅籠住ひや蜆汁 橙黄子

瀬田川の蜆とる舟写し来し かな女

渡舟つくやおくれてあがる蜆売 淡路女

蜆舟石山の鐘鳴りわたる 茅舎

菜の花の岬を出でて蜆舟 茅舎

大風に閉ざす障子や蜆汁 みどり女

雪どけの都あはれや蜆掻き 万太郎

いま泣きし泪の味や蜆汁 万太郎

蜆舟弓張るごとくいそしめり 青畝

駅頭の寝雪に蜆こぼしけり 普羅

裏川に獨り蜆を掘る女 虚子

蜆汁飽きずに雪の降ることよ 万太郎

蜆汁はや子も揃ふことまれに 汀女

おもひきり雪のふるなり蜆汁 万太郎

汁熱き諏訪の蜆の白肉食ふ 誓子

更けし夜は瀬音のみなり蜆汁 秋櫻子

一攫の蜆の暗きいのち買ふ 不死男

来て見れば蜆籠積む歌枕 秋櫻子

人麿の詠みし浦曲の蜆籠 秋櫻子

潮一縷のこす干潟や蜆舟 秋櫻子