春色や甍さゝへる朱の柱
雪解川峠の下を衝きにけり
野を焼くや焔の中にある太古
囀や天地金泥に塗りつぶし
僧正の齢知れざる桜かな
陽炎の移り移れる旅人かな
来る鳥ののめば浴ぶれば温む水
炉塞や鶫の脂舌頭に
帰らんと囃し出しけり汐干舟
曇るほど人の出でたる汐干かな
囀や囀らざるは落椿
鳴きもする諏訪の蜆や汽車の中
湖と共に曇りし辛夷かな
東風吹くや尚砂山の枯芒
東風吹くや枯るゝにあらぬ海女の髪
縫物の膝から霞む日なりけり
春月を浴び来し衣を衣桁かな
山鳥の枯色をかし水温む
春の水何が落ちても水輪かな
桜餅つゝめる紙の濡るゝかな
燕や淋しき町に淋しき坂
蝶々や庫裡古ければ藪古く
古利根の闇を見てゐる蛙かな
暖かや半日立たぬ膝袋