和歌と俳句

野村喜舟

春色や甍さゝへる朱の柱

雪解川峠の下を衝きにけり

野を焼くや焔の中にある太古

や天地金泥に塗りつぶし

僧正の齢知れざるかな

陽炎の移り移れる旅人かな

来る鳥ののめば浴ぶれば温む水

炉塞や鶫の脂舌頭に

帰らんと囃し出しけり汐干舟

曇るほど人の出でたる汐干かな

囀や囀らざるは落椿

鳴きもする諏訪のや汽車の中

湖と共に曇りし辛夷かな

東風吹くや尚砂山の枯芒

東風吹くや枯るゝにあらぬ海女の髪

縫物の膝から霞む日なりけり

春月を浴び来し衣を衣桁かな

山鳥の枯色をかし水温む

春の水何が落ちても水輪かな

桜餅つゝめる紙の濡るゝかな

や淋しき町に淋しき坂

蝶々や庫裡古ければ藪古く

古利根の闇を見てゐるかな

暖かや半日立たぬ膝袋