和歌と俳句

野村喜舟

千鳥飛ぶや燈台直下浜すこし

は高野聖を掴みけり

後ろよりべつたら市の大根かな

恋娘べつたら市をあるきけり

寒詣火の番の眼に消えにけり

提灯に己の影や寒詣

笹鳴や世をしづめたる山家集

行年の往来皆乗る渡舟かな

枯野来て四人たまりし渡舟かな

眠る山の水しぼり取る筧かな

降るや拳の鷹に心問ふ

を来て奈良博物館に入りにけり

二タ杉より離々の人家の雪野かな

詣りぬれば釣鐘蒼き深雪かな

僧の前を鴉のありく枯野かな

芭蕉忌や遅れ生れし二百年

折鶴をやがて千折る炬燵かな

重たしととる笄や玉子酒

冬木二本憩ふ旅人をはさみけり

先生の黒のトンビの寒さかな

や南大門昔顛倒

節分や八百八町月の辻

鴛鴦や眠りもぞする鴨の中

沖の石ひそかに産みし海鼠かな

担がるゝ熊の四足や冬の空

引くや颪の中にある暮色

神の旅古事記の紙魚の穴よりす

神送る鳥居の上の虚空かな

蝦夷の神雁に乗り来し旅路かな

河豚鍋や炉にかたむきて地獄変

古里の灯とぼし頃の落葉かな

力石落葉の中に据りけり

尻あぶる人山を見る焚火かな

や蔀下ろして山河断つ

山内の杉に吸はるゝ粉雪かな

屋根の石落ちなんとして枯野かな

冬の山篠の刈らるゝ音すなり

紫に蜆のつるゝかな

しゝむらは水火の夢の蒲団かな

石段にたばしる豆や鬼やらひ

欅より雀こぼるゝ寒さかな

鶺鴒の尾に叩かるゝ枯野かな

寒声や口紅黒く頬蒼く

寒声や辰巳といへば橋いつく

草庵に桶を足しけり年の市

房州の波を見に来つ年忘

水鳥や白々明けの尖り浪

酢に逢うて石となりたる海鼠かな

蕭々と星を呼びゐる冬木かな