和歌と俳句

寒さ

御格子に切髪かくる寒さ哉 子規

薔薇の花の此頃絶えし寒さ哉 子規

寒けれど不二見て居るや阪の上 子規

石垣や松這い出でて水寒し 子規

寒けれど富士見る旅は羨まし 子規

蝋燭の泪を流す寒さ哉 子規

出家せんとして寺を思へば寒さ哉 子規

写し見る鏡中の人吾寒し 子規

弁慶に五条の月の寒さ哉 漱石

四壁立つらんぷ許りの寒哉 漱石

温泉をぬるみ出るに出られぬ寒さ哉 漱石

暁の埋火消ゆる寒さ哉 漱石

雪洞の廊下をさがる寒さ哉 漱石

新道は一直線の寒さかな 漱石

おかるものくめるものなき寒さかな 龍之介

秀衡と芭蕉君にも寒さかな 碧梧桐

人首と書いて何と読む寒さかな 碧梧桐

妻難を文す寒さや君にのみ 碧梧桐

万葉の歌に後なき寒さかな 碧梧桐

足早き提灯を追ふ寒さかな 虚子

死を思へば死も面白し寒夜の灯 鬼城

一つづつ寒き影あり仏達 鬼城

真木割つて寒さに堪ふや痩法師 鬼城

藪伐れば峰のこだます寒さかな 蛇笏

本所はしぐれぬよしの寒さかな 万太郎

夜をひとり省墓の記書く寒さかな 龍之介

門内の敷石長き寒さかな 龍之介