和歌と俳句

芥川龍之介

炉の灰にこぼるゝ榾の木の葉かな

時雨るるや層々暗き十二階

峡中に向ふ馬頭や初時雨

雪竹や下を覗けば暮るゝ川

夕暮やなびき合ひたる雪の竹

手賀沼の鴨を賜る寒さかな

わが庵や鴨かくべくも竹柱

烏瓜届けずじまひ師走かな

短日や味噌漬三ひら進じそろ

山国の蜆とどきぬ春隣

燃えのこるあはれ榾の木の葉かな

大寒や羊羹残る皿の底

山畠や日の向き向きに起くる

影多し師走河原の砂の隈

霜のふる夜も菅笠の行くへかな

冬の日や障子をかする竹の影

薄棉はのばし兼ねたる霜夜かな

霜解けに葉を垂らしたる八つ手かな

初霜や藪にとなれる住み心

炭取の炭ひびらぎぬ夜半の冬

炭取の底にかそけき木の葉かな

時雨るゝや犬の来てねる炭俵

や薬のみたる腹工合

甘栗をむけばうれしき雪夜かな

生け垣に山茶花まじる片かげり

初霜の金柑のこる葉越しかな

時雨るゝや堀江の茶屋に客一人

山茶花の莟こぼるゝ寒さかな

小春日のけふも暮れけり古障子

小春日を夕鳥なかぬ軒ばかな

のうみ吹きなげるたまゆらや

小春日や暮るゝも早き古障子

茶のけむりなびきゆくへや東山

甘皮に火もほのめけり焼林ご

おかるものくめるものなき寒さかな

わが庭の雪をかがるや木々の枝

あらはるる木々の根寒し山の隈

や木々の根しばる岨の上

時雨るゝや峯はあけぼのの東山

あけぼのや軒ばの山を初時雨

夕鳥の声もしづまる小春かな

からたちや雪うちすかす庭まはり

あけぼのや鳥立ち騒ぐ村時雨

庭石に残れる苔も小春かな

小春日の塒とふらしむら雀

小春日や耳木兎とまる竹の枝

木枯や茅萱わけ入る笠の鳴り

山本の霜夜を笠のゆくへかな

枯芝をすべり下れば室の花

藪かげの道のわだちも冬日かな