和歌と俳句

八手の花

赤彦
窓の外に白き八つ手の花咲きてこころ寂しき冬は来にけり

赤彦
一かぶの八つ手の花の咲き出でしわが庭の木にのこる葉もなし

千樫
塀の上の八つ手の花の青白く光つめたき冬さりにけり

花八つ手蜂さむざむと飛べるのみ 蛇笏

霜解けに葉を垂らしたる八つ手かな 龍之介

寺ばかり雪のある日や花八ツ手 月二郎

空高き星夜となりぬ花八ツ手 鷹女

鶯の眦さむし花八つ手 水巴

八つ手咲いて金の三日月よく光る 水巴

葉の面に凍れる雪や花八ツ手 秋櫻子

打水のつらゝできたり花八ツ手 草城

晴れてくれさうな八ツ手の花 山頭火

たそがれのもの見えて居り花八ツ手 石鼎

さかんなる八ツ手の花のうすみどり 立子

花八手黄白けしと浅黄なると 石鼎

八つ手咲いて月光土にしむ夜頃 淡路女

八つ手咲き雀のめざめおそくなる 秋櫻子

花金剛纂焚火に燻べて魚香あり 蛇笏

八ツ手散る楽譜の音符散る如く しづの女

写真師のたつきひそかに花八つ手 蛇笏

咲き溢る八ツ手籬を出でざりき 鷹女

金剛纂さき女医につめたきこころあり 蛇笏

八ツ手咲け若き妻ある愉しさに 草田男

炭を切る筵明るし花八ッ手 欣一

花八つ手縁談窶れ誰が子ゆゑ 友二

空広く声たまにくる花八ツ手 綾子

ぬきんでて八つ手の花の日なたあり 素逝

友娶り然も在らぬか花八つ手 波郷

征くが弓彦闇の向ふが花八つ手 知世子

花八つ手貧しさおなじなれば安し 林火

花八手乏しけれども二人子立つ 波郷

いまも小さき手や東大の花八手 草田男

花八ツ手日昏れて神も蝋細工 鷹女

能面がゆくけんらんと花八ツ手 鷹女

青ざめて八ツ手が咲けばあの世めく 鷹女

肋骨に毬かかげ八ツ手老い候 鷹女

おどろくや己れ影して花八ツ手 鷹女

夜は夜の八ツ手の手毬死者の手毬 鷹女

八つ手咲きつづく日和の母のもと 汀女