和歌と俳句

竹下しづの女

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大いなる弧を描きし瞳が を捉ふ

土蜂や農夫は土に匍匐する

痩せ麦に不在地主の吾が来彳つ

小作より地主わびしと麦熟る

藍を溶く紫陽花を描くその藍を

偸みたる昼寝芳し事務の椅子

的礫や風鈴に来る葦の風

風鈴や古典ほろぶる劫ぞなき

風鈴に青葦あをき穂を孕む

瑞葦に風鈴吊りて棲家とす

軒ふかしこの風鈴を吊りしより

翡翠の飛ばぬゆゑ吾もあゆまざる

翡翠に遅刻の事は忘れ居し

笹枯れて白紙の如しかたつむり

黄塵を吸うて肉とす五月鯉

五月鯉吾も都塵を好みて棲む

緑樹炎え日は金粉を吐き止まず

緑樹炎え割烹室に菓子焼かる

颱風に髪膚曝して母退勤来

臭き鈍の男の群に伍す

額にしいよいよ驕る我がこころ

そくばくの銭を獲て得しあせぼはも

小作争議にかかはりもなくとなる

おばしまにかはほりの闇来て触るる

月の名をいざよひと呼びなほ白し

我を怒らしめこの月をまろからしめ

怒ることありて恚れりまどか

まろし恚らざる可らずして怒り

嫁ぎゆく友羨しまずをむく

をむきて久遠の処女もおもしろし

紫の蕾より出づ銀の葦

かたくなに檪は黄葉肯ぜず

楢檪つひに黄葉をいそぎそむ

寒風と雀と昏るるおのがじし

寒雀風の簇にまじろがず

まつくらき部屋の障子に凭れ居し

八ツ手散る楽譜の音符散る如く

黒き瞳と深き眼窩に銀狐

の描く水尾の白線剛かつし

ペンだこに手袋被せてさりげなく

雪ふかき田家に火のみ赤く燃ゆ

赤光をつらねてくらし遠山火

山火炎ゆ乾坤の闇ゆるぎなく

山上憶良ぞ棲みし萌ゆ

萌ゆ憶良旅人に亦吾に

蓬摘む古址の詩を恋ひ人を恋ひ

万葉の男摘みけむ萌ゆ

木蓮に白磁の如き日あるのみ

ただならぬ世に待たれ居て卒業

新しき角帽の子に母富まず

月見草灯よりも白し蛾をさそふ