和歌と俳句

山の月雨なき麦を照らしけり 亞浪

暮れゆくや海光荒き穂麦原 亞浪

するが野や大きな富士が麦の上 亞浪

浪の音島山の麦熟れにけり 亞浪

麦の穂はのびて文福茶釜道 風生

麦畑くすぶり色に熟れにけり 石鼎

中海のほとりに熟るる穂麦かな 石鼎

穂麦、おもひでのうごきやう 山頭火

手をば刺す穂麦の中を来りけり たかし

ともかくも麦はうれてゐる地平 山頭火

花籠に挿し添ふ穂麦二三茎 麦南

麦穂だつ陽は鉄塔に灼けそめぬ 麦南

背低く麦かつぎをる孀かな 虚子

浅間猛る日々を黄ばめり山の麦 亞浪

麦の穂に立つ風ありて暮れそめぬ 

そよ風の麦の夜道となりにけり 

熟れ麦のにほふ夕べを雨来らし 

麦暑し穂に刺されつつめくるめく 三鬼

孤島ありて麥畑ある洋の中 虚子

麦の穂によせて哀しきおもひかな 万太郎

砂みちのどこまでつづく穂麦かな 万太郎

浪すこし高くなりぬる穂麦かな 万太郎

麦の穂の出揃ふ頃のすがすがし 虚子

熟れ麦を手にたのしむや濤音す 林火

夕日さすわが胸もとへ麦伸びし 林火

ぐるぐると廻る夕日や麦熟るる 耕衣

龍骨の粗木を立たしめ麦黄なり 誓子

麦黄なり屋に竜骨の聳え立ち 誓子

船造る鉄尺を地に麦黄なり 誓子

そくばくの麦の黄もあり多摩河原 たかし

麦の穂にたふれしづみしが起きて駈く 素逝

けふもまた穂麦のなかに砲を据う 素逝

かげろうふのゆれうつりつつ麦熟れぬ 蛇笏

麥熟れて夕真白き障子かな 汀女

帰還兵病めり熟れゐる山の麦 亞浪

麦の穂のそろふ景色の文机 風生

小作より地主わびしと麦熟る しづの女

人血のあふれては乾く千里の麦 草城

戦火去り壁の群落麦の海に 草城

破声はるかなり麦は夕映ゆる 草城

麦暮れぬ流弾笛をふいて飛ぶ 草城

ふく風の雨氣にまけし穂麦かな 万太郎

眼正しく麦の穂立ちの中進む 誓子

機関区を過ぎ来し道が麦の道 誓子