およぎつつうしろに迫る櫓音あり
をどり見にさそはれてゆく避暑の宿
麦の穂に立つ風ありて暮れそめぬ
張りものゝ乾く間を読む木かげかな
椎の花雨となりゆく夜を白し
吾子のこゑ梅雨の径をかへりくる
夏蝶の目まぐるしけれ花を切る
山霧に湯の香こもりて明け易き
籐椅子に暮ゆく高嶺みてゐたり
そよ風の麦の夜道となりにけり
並みて行く吾子の若者ころもがへ
逆はず黙して梅の実をかぞふ
菖蒲湯の香の染みし手の厨ごと
草の香を打つけ驟雨まどにくる
熟れ麦のにほふ夕べを雨来らし
門あるきけさは額咲く水に沿ひ
つるばらや三とせの伸びの花をかかげ
さみだるゝ軒の重さよほどきもの
薬草を乾して牧舎の百合咲けり
噴煙に夏日かげりぬ熔岩の色