和歌と俳句

万葉集巻十四
くへ越しに 麦食む小馬の はつはつに 相見し子らに あやに愛しも

好忠
山がつの はてに刈りほす 麦の穂の くだけて物を 思ふころかな

麦の葉に慰行や小山伏 才麿

麦の穂の筆を染るや御門外 才麿

郭公まねくか麦のむら尾花 芭蕉

芭蕉 (野ざらし紀行)
いざともに穂麦喰はん草枕

芭蕉 (野ざらし紀行)
行駒の麦に慰むやどり哉

一日ひとひ麦あからみて啼雲雀 芭蕉

麦の穂を便ぬつかむ別かな 芭蕉

麦の穂のはづれはづれやあじろ笠 浪化

旅芝居穂麦がもとの鏡たて 蕪村

うは風に音なき麦を枕もと 蕪村

蕎麦あしき京をかくして穂麦哉 蕪村


草山や南をけづり麦畑 漱石

麦の穂にかるがるとまる雀かな 蛇笏


安房の國や 長き外浦の 山なみに 黄ばめるものは 麥にしあるらし

牧水
黄なる麦 一穂ぬきとり 手にもちて 雲なきもとの 高原をゆく

牧水
わが顔も あかがねいろに 色づきぬ 高原の麦は 垂穂しにけり

赤彦
おぼつかなき 雨のあがりに 夕方の 麦の黄ばみは うすほのめけり

牧水
遠山の うすむらさきの 山の裾 雲より出でて 麦の穂に消ゆ

夏海へ燈台みちの穂麦かな 蛇笏

鳩啼いてひとり旅なる山の麦 亜浪

麦の穂にわが少年の耳赤し 石鼎

牧水
熟れわたる 麦のにほひは 土埃 まひ立つ道に 流れたるかな

耕平
一面の 穂麦畠に あかあかと 風波わたる 見れど飽かなく

提灯に穂麦照らされ道左右 泊雲

朝燕麦穂の露の真白なる 泊雲