和歌と俳句

麦打ち 麦埃

長旅や駕なき村の麦ぼこり 蕪村

麦挨樗にくもる門辺かな 太祇

十津河や見込の武具も麦埃 召波

真清水にうかべる麦の埃かな 虚子


濱荻の網干す磯ゆ遠くみるあられ松原人麥を打つ

麦埃掃きて灯すや家広し 石鼎

日輪を包みし麦の埃かな 喜舟

山寺の大炉の蓋や麦埃 泊雲

麦仕舞屋根の埃も掃きおとし 泊雲

垣越しに隣より降る麦埃 泊雲

麦を打つ頃あり母はなつかしき 素十

麦埃かぶる童子の眠りかな 龍之介

荘厳の梁をまぶすや麦ほこり 龍之介

麦埃こぼれつゞけり渚まで 泊雲

麦埃浮べて利根の一支流 秋櫻子

麦打ちの掃き清めたる一ところ 烏頭子

麦打や開けある我戸気にしつゝ 泊雲

たかむらを相へだてたる麦を打つ 悌二郎

麦埃いとふ白機織りすゝむ 麦南

麦埃赤光の星森を出づ 茅舎

麦打の音近づきゆきにけり 立子

麦埃うすくなりつつ又立てる 立子

麦打の遠くの音の眠たけれ たかし

神苑の四方より麦を打つこだま 茅舎

麦打の今夕かげる涼しからむ たかし

麦埃軟らかくして道に踏む 誓子

麦埃旅の時間は生きてゐる 草田男

麦ぼこり母に息子の臍深し 三鬼