和歌と俳句

高浜虚子

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五六騎のかくれし寺や棕櫚の花

藻の花に日当らざるお堀かな

溝板踏んでの中に入る裏戸かな

山を越えて他藩に出でし夏野かな

女房の古りにけるかも笹粽

僧俗の交りあはきかな

妻ごめに八重垣つくる二つ繭

百人一首を行列にする祭りかな

薔薇の花楽器いだいて園にいでぬ

芝居見はおしろい花に紅の花

へご鉢の水まさりけり五月雨

梅の実を必ずくるる隣あり

夜半に起きて蚊をやく母の病かな

蚊をやいて子をいとほしむ火影かな

草の家にひくくたれたる蚊帳かな

蚊遣火の煙遮る団扇かな

蚊遣火やこの時出づる蚊喰鳥

蚊遣火や縁に置いたる馬の沓

盥舟雲の峰迄至るべく

磐石の微動してゐる清水かな

旅人の立ちよる裏の清水かな

涼み笛吹く人をとりまきぬ

打水や空にかかれる箒星

打水や石燈籠にともすべく

早鮓や人をもてなす夕まうけ

法華経を枕にしたる昼寝かな

病む母に父の形見の土用干

蓮臭き佛の飯を茶漬かな

菖蒲湯や彼の蘭湯に浴すとふ

薔薇剪つて短き詩をぞ作りける

薔薇呉れて聖書かしたる女かな

薔薇散るや前髪崩れたる如く

短夜や灯を消しに来る宿の者

五月雨に郵便遅し山の宿

五月雨や魚とる人の流るべう

ほととぎす啼きどよもすや墳の上

夕立や朝顔の蔓よるべなき

夕歩き宿の団扇を背にして

目洗へば目明らかに清水かな

音のして草がくれなる清水かな

の石に月登りけり草の庵

一日をひるねに行くや甥の寺

物なくて軽き袂や更衣

雨に濡れ日に乾きたるかな

うち立てて見えぬの破れかな

川狩の謡もうたふ仲間かな

山の上の涼しき神や夕まゐり

煙管のむ手品の下手や夕涼み

鼻緒ゆるき宿屋の下駄や夕涼み

うり西瓜うなづきあひて冷えにけり

雨二滴日は照りかへす麦の秋

真清水にうかべる麦の埃かな

打水にしばらく藤の雫かな

鼓あぶる夏の火桶や時鳥

夏木立蔚然として楠多し

長き根に秋風を待つ鴨足草

鬼の面ぬげば涼しき美男かな

何蟲ぞ姫向日葵の葉を喰ふは