和歌と俳句

鮓 すし

明石より神鳴はれて鮓の蓋 其角

なれ過ぎた鮓をあるじの遺恨哉 蕪村

木のもとに鮓の口切あるじかな 蕪村

鮓つけて誰待としもなき身哉 蕪村

鮒ずしや彦根の城に雲かかる 蕪村

鮓をおす石上に詩を題すべく 蕪村

鮓の石に五更の鐘のひびきかな 蕪村

夢さめてあはやとひらく一夜ずし 蕪村

すし桶を洗へば浅き游魚かな 蕪村

寂寞と昼間を鮓のなれ加減 蕪村

はや鮓の蓋とる迄の唱和かな 太祇

今少しなれぬを鮓の富貴哉 几董

なれきとやいざとけ真木の柱鮓 几董

鮓に成る間を配る枕哉 一茶

鯛鮓や一門三十五六人 子規

垣ごしや隣へくばる小鯵鮓 子規

ふるさとや親すこやかに鮓の味 子規

早鮓や東海の魚背戸の蓼 子規

野の店や鮓に掛けたる赤木綿 子規

鮒鮓や膳所の城下に浪々の身 虚子

いくさになれて鮓売りにくる女かな 虚子

扛げ兼て妹が手細し鮓の石 漱石

すすめたる鮓を皆迄参りたり 漱石

早鮓や人をもてなす夕まうけ 虚子

重箱に笹を敷きけり握り鮓 漱石

鮓の石に月登りけり草の庵 虚子

落ちし雷を盥に伏せて鮓の石 漱石

高根より下りて日高し鮓の宿 碧梧桐

灯消えたり卓上に鮓の香迷ふ 虚子

此宿や飛瀑にうたす鮓の石 蛇笏

千々の条朱を引く鮓の石あり 碧梧桐

鮓宿へ旅人下りぬ日の峠 蛇笏

鮓切るや主客五人に違ふ皿 普羅

南風にほや焦したる鮓の宿 石鼎

涛声に簀戸堪へてあり鮓の桶 石鼎

夕立や鮎の鮨皆生きつべう 龍之介

鮓の香のほのかに寒し昼の閑 草城

ちはやぶる神代の石や鮓の石 草城

酢の石金輪際に据ゑにけり 普羅

鮓の石雨垂れの穴あきにけり 犀星

鮓おすや貧窮問答口吟み しづの女

客の座に朱の漆の鮓の桶 虚子

赤なしの柿右衛門なる鮓の皿 虚子

ペルシアン・ブリューの鮓の皿もあり 虚子

蓋とりて柿の葉鮓は築くごとし 爽雨

おろされし大石いづこ鮓を食ふ 爽雨

鮓腹に吉野の山河帰りなむ 爽雨

空路より渓の魚の鮓到りたる 爽雨

鮓を食ふ二階にはかに雨ふとき 爽雨