和歌と俳句

室生犀星

夏あはれ生きてなくもの木々の間

夏寒や煤によごるる碓氷村

夏寒き白粥煮るや古火桶

ひさかたの雨頬にめでつ夏昼かな

炎天や瓦をすべる兜虫

硝子戸に夕明りなる蠅あはれ

煤けむり田端にひらふ蛍かな

足袋白く埃をさけつ大暑かな

をやく山ざとならば寒からん

とうふやややまめ生きゐる山筧

避暑の宿うら戸に迫る波白し

の石雨垂れの穴あきにけり

屋根瓦こげつく里の夏書かな

かくれ藻や曇りてあつき水すまし

白南風や背戸を出づれば杏村

梅雨ばれのきらめく花の眼にいたく

焼けし後浅間に見ゆるやつれかな

夏の山干魚のまなこ光るかな

ふるさとや松の苔づくのこゑ

かたかげやとくさつらなる蝉のから

山ぜみの消えゆくところ幹白し