和歌と俳句

室生犀星

松かげや絲萩伏して秋の立つ

犬も曳く粉屋ぐるまや秋暑し

沓かけや秋日にのびる馬の顔

秋の日や埃くもれる古すだれ

月の夜は雑木もさわぐ風ならん

さかさまに葉書かきゐて秋夕

秋もやや土のしめりの夕かけて

秋あはれ山べに人のあと絶ゆる

庭近く机つゆけきいとどかな

馬が虻に乗つて出かける秋の山

秋めくやとんぼうよぎる書庫の間

秋水や蛇籠にふるええびのひげ

とんぼうや羽の紋透いて秋の水

すぎごけで織られてゐるよ秋の水

鯛の骨たたみにひろふ夜寒かな

きりぎりす己が脛喰ふ夜寒かな

しの竹や夜さむに冴ゆる雨戸越し

ひとりねの枕にかよへ秋の風

裏山や枝おろし行く秋の風

朝寒や幹をはなるる竹に皮

は白くしぐれ溶けあふ夕厨

石段を叩いてのぼる秋の人

身にしむやほろりとさめし庭の風

茶どころの花つけにけり渡り鳥

行きもどり駅のいとどの絶えにけり