和歌と俳句

身にしむ

和泉式部
秋吹くはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらん

千載集・秋 賀茂重政
神山の松吹く風もけふよりは色は変らで音ぞ身にしむ

実朝
玉だれのこすのひまもる秋風に妹こひしらに身にぞしみける

芭蕉(野ざらし紀行)
野ざらしを心に風のしむ身哉

身にしみて大根からし秋の風 芭蕉

鳩の声身に入わたる岩戸哉 芭蕉

身にしむや横川のきぬをすます時 蕪村

身にしむや亡妻の櫛を閨に踏 蕪村

俳諧の咄身にしむ二人哉 子規

学ぶ夜の更けて身に入む昔哉 子規

晶子
何ごとによらず心は貫くと云へどわれにも秋は身に沁む

身に入むや白髪かけたる杉の風 鬼城

身に入むや踏み落す石の谷の音 虚子

身に入むや喪の帷子の薄鼠 喜舟

身に入むやつまみ菜沈むよべの汁 喜舟

佇めば身にしむ水のひかりかな 万太郎

身にしむや濡れて帰りし妻の袖 月二郎

身にしむやみとりしなれて貧し妻 月二郎

身に沁みて仏体近き闇に立つ 楸邨

身に沁みて礁を越ゆる夜の潮 楸邨

身に沁みて夕映わたる門の石 楸邨

身に沁みてオホーツク海のとどろく夜 楸邨

身に染むや砂利をならして人は去り 楸邨

身に沁みて死にき遺るは謗らるる 楸邨

身にしみて人には告げぬ恩一つ 風生