生ありて悼めば秋の燭みじかし
鶏頭にもだしかねたる首あげぬ
一燈の秋やゴリキーに「夜の宿」
飢さむく目に漆黒の煙たつ
わが月日妻にはさむし虎落笛
藷二十日妙義に向きて胃がいたし
吹きめぐる野分に向けし喉仏
火の中に死なざりしかば野分満つ
身に沁みて死にき遺るは謗らるる
死ねば野分生きてゐしかば争へり
霜の石踏まれどほしの朝いたる
ある夜わが息白く裏切らる
渓に逢ふ霧の汽罐車びしよぬれに
黒牛の腹たゆたゆと秋の風
月明や首出して嘶く貨車の牛
月ありや渓の水汲む洗面器
踏む石のぐらりと傾き十三夜
信楽の月のあまねき柿一顆
陶やきのけむりや月を見失ふ
身も胸も野分の貨車に打ち揺られ
鵙きくや片足あぐる石の上
君がいふわが強情や冬芽かなし
わらひだすまでに不運や鵙たける
鵙たけるロダンの一刀われにほし
冬の鼻胸に灯ともりさびしけれ